住む人を柔らかく包んで守る、伝統構法の家 - 災害に強い家づくり -

柱を刻む

住まいは人を守るもの

海に囲まれ、山があり、四季がある私たちの日本。豊かな自然に恵まれた国ですが、夏には必ずといっていいほど台風が上陸し、数年に一度は大きな地震がある国です。私たちの暮らす住まいにとって、災害に強いということはとても大きな選択肢の一つではないでしょうか。

大きな地震があるたびに、政府と国会は耐震基準を見直し、地震に強い家造りを目指しています。明治以降の近代の家造りは壊れない家造りを目指して西洋の建築学を元に基準が作られています。柱を金具で固め、斜めの筋交いの壊れない壁でしっかりと固め、揺れにしっかり耐える建築です。頑固に地震に耐えるというイメージでしょうか。堅く強い家造り。在来構法は剛構造の家造りといえます。ひとつの考え方として、国民を守るために研究されています。

地震の力を受け流す伝統構法の家

一方で、“伝統構法と土壁の家”の構造は、土でできた壁と木材ですから、弱いのではと心配になりますよね。しかし、この柔らかな構造が中の人を守るのです。地震の時に家全体が地震の揺れに合わせて揺れることで、地震の大きな力を受け流し、中の人を守るのが伝統的な日本建築の考え方なのです。ちょうど最新の車が衝突時にバネのように潰れて衝突の力を和らげ、中の人を守るのと同じ考えです。

伝統的な日本建築は古くさいもの、忘れ去られたものと考えがちですが、伝統構法の木造家屋や木造巨大建築物がなぜこの地震国日本で何百年も壊れずに残されてきたのか、奈良・平安の昔から私たちの国の気候や災害にあわせて育てられてきた、伝統や知恵、工夫がたくさんあるからです。“最先端の素材や構法で造られた現代の家造り”だけが地震対策ではないのです。

柔構造の伝統構法

骨組み
柱と梁と貫で作られた、伝統構法の骨組み。地震の力を柔らかく受け流します。
斜めの筋交いは工事中の仮。

その古くから日本建築を支えてきた伝統構法の家造りは、大工の手で一つ一つ刻まれるぐち(上部の部材写真)を組み合わせて柱とはりを組み合わせ、家の横方向をつらぬぬきという板材で作られます。伝統構法の建物は地震の揺れに併せて建物自体が揺れる構造なのです※1。伝統的な家造りは揺れの力を受け流す柔構造です。

分かりやすいのは五重塔です。数百年の間、地震に耐え、風雪に耐えた高い五重の塔。塔は地震に弱いはずなのに、日本の至る所に五重塔が造られ、長い年月守られてきています。千年も続く日本の伝統技術は地震との戦いの知恵の結晶ともいえるのです。

超高層ビルと伝統構法の家、どちらも柔構造

古いものどころか伝統構法の基本的な考え方は、超高層ビルやスカイツリーなどに取り入れられています。高層建築物の耐震構造も伝統構法と同じ柔構造なのです。最先端の設計と千年前の大工の棟梁の設計に共通点があるのが面白いです。地震に柔らかく立ち向かう構造なのです。そこが私たちがこの“伝統構法と土壁による家造り”にこだわる理由なのです。 

在来構法と伝統構法の違いは耐震の限界を超えた時に現れます。剛構造の在来構法は強い代わりに崩壊する時は一気に壊れると言われています。柔構造の伝統構法の家は、一気に崩壊するのではなく徐々に崩壊して行きます。家が壊れる最後まで住まう人々が逃げる時間を確保し、住人を守りま※2

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※1 建築基準法で最低限の筋交いを入れる事が決められているため、筋交いを入れる場合がございます。
※2 伝統構法を研究する学会で、様々な実験を繰り返し、技術を高めていっています。